それからは中也に加えて龍ちゃんもわたしの部屋に入り浸ることが多くなった。中也によく仕事して来いと怒られている。
 どうやら、中也は室内での仕事も結構あるけど、龍ちゃんは外回りが多いらしい? けど結局どっちも自由時間はここでのんびりしている。そんなわけで、ベッドはすっかり共用になっていた。
 しかし、ふたりとも生活サイクルがボロボロでこちらとしては心配だ。基本夜型人間らしいけど、かなりの頻度で1回も寝てなくない? みたいな時間にふらふらやって来て休息をとっていく。中也はまだギリギリベッドまでふらふら歩いて倒れて爆睡してくれるが、龍ちゃんに至ってはわたしのいるところまでふらふら来て倒れかかってきたり、遂には部屋に入ってわたしを見た瞬間床に倒れ込んで爆睡する時すらある。
 わたしをベッドと見間違えたり、ベッドまで行けず倒れたりとだいぶヤバいと思う。


「って感じなんですけど、なんとかならないですかね?」
 というわけで、ふたりの雇用主っぽい森さんに聞いてみた。

 わたしの話を聞いた森さんはぴくっと跳ねて、片手を上げて、……待ってね、と呟いた。
「確認したいんだけど、つまり二人はなまえちゃんの部屋で寝てるってこと?」
「うん」
「いつも?」
「ちがう時もあるよ。最近だと……えっと、五日前とか」
「五日前……は二人とも出張か。最近でそれか。じゃあ可能な時はいつもってかんじだね。うん……そっか……」
 ナイフとフォークを置いて、うーむむと考える仕草をする。
「それで、可能なら勤務条件とかの見直しを……」
「気にするのそっちか。うーんそっちか」
 うーんでも変なことにはなってなさそうだな……とかなんとか呟く森さんはしばらく眉間を指でぐりぐりやった後、わかったよと答えた。
「お、ほんと?」
「うん。二人には、私からよく言っておくから」
 すごい。カタギじゃない割にホワイトだ。一般常識に囚われないが故の行動の早さかな。これは直談判した甲斐があったというものだ。
 やったーと思い食事を再開する。これは今朝にパンケーキ食べたいとごねてうーん夕食にパンケーキかと渋られたけどなんやかんやパンケーキにしてくれた夕飯だ。わたしのは生クリームもりもりパンケーキだけど、森さんのはおかず系パンケーキになっている。甘いもの苦手なのかな。
 ていうか、そこまでして同じものを食べようとしなくてもいいのに。
 思い返すと、森さんって結構わたしのこと好きだよな。正月に駄々こねたらお年玉もくれそう。
 親戚のおっちゃんみたいなもんかと納得して、最後の一口を頬張る。……いや待てよ。

 直談判が効く、そしてわたしに甘いということは。
 もしかして森さんにお願いすれば、外でお散歩できるのでは?

 未だ続くわたしの着ぐるみお散歩キャンペーンは遂にポ〇モンだけでなくサ〇リオキャラクターまで網羅してしまった。ていうか毎回着ぐるみを変える必要はないと思う。中也曰く「毎回同じだとお前も飽きんだろ」それなら着ぐるみじゃなくルート変えない?「ほら今日のこれ、ポ〇ポ〇プリン。耳まで動くぞ」ほんとだすげー絶対着たい。
「森さん、あのー」
「ん?」
 森さんはわたしが話しかけると絶対に食事の手を止めてくれる。
 そこまでしなくていいのに、そのせいで森さんのパンケーキは生ぬるいまま、まだまだ残っている。

 わたしは時折、彼のここまでの行動を見て、わたしが彼にとっての一種の呪いのようにも思える瞬間がある。

「森さんと一緒に、外にお出かけがしたいなあー」
 媚びに媚びて媚び媚びで伝えると、森さんはきゅーと目を閉じて、んんーと呻いた。
「かわいー。けど、そういう訳にもいかないんだよね」
 わたしとしてはそういう訳のところを是非伺いたいところだが、きっと訊いてもはぐらかされるのだろう。
 うわーとイスの上でじたばた駄々こねをすると、森さんはあわあわーとして席を立ち、わたしに駆け寄ってあやしてくれる。ごめんねー大丈夫だからねー、飴ちゃん食べる? オオサカのおばちゃん?
「わーん飽きたよーおそとで遊びたいよォ」
「あーんごめんねーよーしよしよしなまえちゃんは一生ここにいるんだよーよしよしよー」
 あやしのついでに、さらっと激重なことを言われた気がするが。
 まあ予想はできたけど、やっぱり森さんに言ってもだめらしい。こりゃ思ったよりおおごとになってきたぞ……と内心ヒヤヒヤしていると、それすら見透かしたような森さんがはっとして嘘だよーと曖昧に笑う。そうして、でも、とつけ足して
「やっぱりずっと此処に、いたほうが、うん、いいんだよ、そう」
 なんて、どこかネジが外れたみたいに言い直す。

 なんだか、すごく憐れだ。
 わたしがいない彼の方が良い気さえするほど。
「そういえば」
「ん?」
「そういえば最近森さん一緒に寝ないね」
「ェ」
「だって起きた時添い寝してたじゃん。わたしが起きるまで毎日そうしてたの?」
 聞くと一転、人間らしく気まずそうにウッと唸る。
「まあ……まあー」
「やっぱりそうだったんだ」
「でも用心棒も兼ねて! ね! 身の回りのお世話もあるし! えっちなことはしてないから!」
「へんたいだあ」
「その物言いドキドキしちゃうからやめてえぇ……」