アレルヤ良い日の頃に


けいかくメモ

・おなかがいたいと言う
・ほけんしつに行くフリをする
・はしる!





「ウオーーーー!!! 大成功ーーーー!!!」
「アハハハハハやったーーーーっ!!」



 綺麗な三つ編みをバタバタさせながら走るニコちゃんの横でわたしも走る。やっぱりちょっとニコちゃんのほうが速くて、合わせてくれているけど、足の長さも違うからすこしだけうしろ。
 焦りとさびしさを感じる前に、ニコちゃんがわたしの手を捕まえてくれた。
 心から笑いながら、走り続ける。
「ほんっとサイコーーーーー!!!! ア゛ーーーーーーーーっっっ!!!!」
 ニコちゃんのデッカイ声に鼓膜が揺れて風が吹いて、ほんとうにさわやかになる。さわやか、ああさわやか! バイバイバイ!
「バイバーイ! さようならーーーッ!!」
「さよならさよならさよならーーー!!!!! ア゛ーーーーーーーーっっっ!!!!」


 いま わかれのとき
 とびたとう 未来信じて


 とおくから、ばかみたいないっしょの声が聴こえる。かき消すみたいに、振りきるみたいに校舎の廊下に別れを告げながら走る。自由をかける鳥よ振り返ることもせずということは、つまり振り返りたくもない今までは自由じゃなかったと歌っている。つまりあの歌は、今まではクソということを歌っている! それがわたしたち!
 わたしたちのやることはもう決まっている。卒業式を抜け出すことは成功した。あとはあとは、ふたりで急げ! あの河川敷へ!

 笑いが止まらない。笑いが止まらないのだ。走って叫んで、ぐちゃぐちゃの呼吸で走り続ける。それが、もう最高。ニコちゃんもあんまり体力あるほうじゃないのに、ずっと奇声をあげて笑ってる。楽しくて仕方ない。校門を抜けて、これ見よがしに植わってる桜なんか速度でぶっちぎっちゃって、絶対に手を離さないで。
「サイコーッサイコーッッ! バイバイバイ!!! なまえは僕が攫っちゃいまぁーす!!!」
「キャアハハアハ!! ニコちゃんはわたしがもらっちゃったもんねーーだ!」

 卒業証書なんかくれてやるよ!
 もう何もかも要らないわたしたちはただ手を離さないで走った。信号なんて車が来なけりゃ無視! ガキは好きだけど尊重すべき子どもなんか邪魔だから退けよ! じいちゃんばあちゃんは寿命まで健やかに生きろよじゃあな!
 走って走って、万物を退かしてここまでやってきた。橋の下、不法投棄されていたドラム缶の前まで来たら、へとへとの足がやっと止まる。ニコちゃんが前に倒れるように石の地面にへたりこんで、わたしもその横に倒れる。

「はっはあっはあっ……」
「あ゛ー……っ はー……っ ……」

 しばらく荒い呼吸だけで会話して、顔を見合わせて、へにゃへにゃ笑った。そうしたら急に泣きたくなって、ふたりで抱きしめあってぐすぐす泣いた。
 かなしいさみしい、そばにいて。
 ああ……いる。
 きみがいる。だいすき。

 そういう確認をしたら、わたしたちはよろよろと立ち上がった。キスはしない。したことない。まだ未熟でいたいわたしたちだから、子どもみたいな友達になる。立ち上がって、制服を脱ぎまくった。
 ちょっと恥ずかしい気もした。でもわたしたちはそんなの気にならないお互いでいたいから、気にせず脱いだ。下着姿。当然だけど、初めて見る。
「……ねえ」
「なに」
「僕たちってセックスするのかな」
「んーニコちゃんとなら、してもいい」
「ふふ」
「なに」
「そう」
「うん」
「ねえ僕たち、セックスだけは僕たちだけのためにやろう。愛のためとかクソ喰らえで、僕たちだけにやろうね」
「……良いよ、ばか! …………」
 ちょっと黙り込んでしまって、でも淡々とドラム缶に脱いだものたちを放り込んだ。
 これはちょっとした巻き戻し。それがけじめみたいになってしまう。行けなかった林間学校のキャンプファイヤーみたいな、そんな気持ちでマッチに火をつける。ドキドキ……。

 わたしたちにはずっと迷いがあって、計画通りもう既に抜け出してきたクセに、取り返しがつかないくせに、ちらちらと進んできた道を見返すような態度をとってしまう。
 だから手を繋いだ。ドラム缶にちいさな熱が落ちる。



 燃え盛るわたしたちの制服を見ても、なんの感動も生まれなかった。ただ見ていた。じっと見た。ざまあみろとか、罵声すら出ない。
 いくらくだらないと思っても、目が離せなかった。

「あしたのさ」
「うん」
「……おひるごはん、一緒にたべたいよね」

 …………朝おきたら、連絡ちょうだい。うん。どっちが早く起きるかなあ。今日は一緒に寝たいね。お母さん許してくれるかな。こっそりしちゃう?

 そんなことを話した。燃え尽きるまでの数秒。
 それが終わればクシャミをした。寒い。草むらに隠して置いておいた服を引っ張りだして適当に着る。

 やり遂げた。
 その結果だけが残る。

 ……燃え尽きた布はドラム缶の底に沈まったまま、わたしたちは橋の下から抜け出した。まだ日の高い春の昼、わたしたちの卒業みたいな偉大らしいことが世界のどっかで起こってるだなんて想像もできないあおい空。
 最終日に全部投げ出しちゃったわたしたちは、今後ちゃんと何かをやり遂げられる? ……
 繋いだ手のひらだけが今だった。わたしたちはきっと何も成し遂げられない。何かをやって生きていく。