ざ・らばーず


最近は天気のいい日が続いたから、それじゃあピクニックにでも出かけようという話になった。龍彦が調べてくれた眺めのいい丘に併設されている牧場にふたりで行って、モルモットを撫でたり羊にエサをあげたりした。
 君は子どもだから、ピクニックだけじゃつまらないだろうって。
 そう言って、牧場でも遊べるところを選んでくれた。ちょっとばかにされたけど、反論はできっこない。実際、牧場がとっても楽しくて、子どもみたいにはしゃいでしまった。
「たつひこもエサやりしようよー」
「いやだ」
 手が汚れるのがイヤなのか、龍彦はエサに触ろうともしない。たしかに、草を固めているものだからか変なにおいがする。じゃあモルモットにニンジンあげてみてって言っても、ニンジンのにおいはもっとイヤみたいでエサやり中は距離をとられてしまった。
 エサやりが終わったら、必ず手を洗わされた。

 エサやりを充分楽しんだあとのデートでは、ちゃんと手を繋いでくれて、今までしてくれなかったキスも幾つかした。龍彦がわたしにキスをするタイミングは未だによくわからなくて、顔と顔がたまたま近くなった時に軽くする時もあれば、急にらんぼうに顎を掴まれてするキスもある。
 お昼のピクニックでも、座っているわたしに覆い被さるみたいに頬にキスをして、でも食べ終わったあとは頬ずりをして終わった。
 サンドイッチは龍彦よりわたしのほうが多く食べて、デザートのぶどうは龍彦に多くあげた。あったかいレモンティーを飲んだピクニックの終わりに龍彦が、キスしてくれないと立てないって甘えて。
 その時はじめてわたしからキスをした。



「ねーさいごに馬に乗ってから帰ろ。来る前に調べてて、乗りたいって思ってたの!」
 龍彦の腕を抱いてねだると、龍彦は良いよ、じゃあペットを飼うなら馬にするかい、なんて冗談を言った。
 そんなの、なんだかプロポーズみたいでずるい。一緒に家庭を築くみたい。
 そうなるのかな。実際、このままいられればそうなると思う。じゃあ今のがプロポーズ? ううん、龍彦のことだから、たぶんもっと計画的にしてくると思う。でも、今のでもじゅうぶん嬉しいというか、照れる。
 わからない……うれしい。
 なんだかへんな気持ちになって、抱いていたたつひこの腕を揺らして遊んだ。龍彦はそれにつられて揺さぶられた声を出していた。





 馬屋に着いて、びっくりした。

「たつひこの生まれかわりだ」
「死んでないが」

 全身しろくて美しく、とても綺麗で気高そうな白馬がいたのだ。
 心做しか、表情も他の馬と違って貴族みたいに優雅に構えている気がする。
 あまりの綺麗さにつられて、ふらふらその子の前に立つ。白馬はわたしをじっと見て、何度かまばたきをした。
 傍に置いてあったエサ置き場にお金を入れて、ニンジンを差し出す。興味なさげにして、口を開いてくれない。
 馬なのに、ニンジンがきらい?
「やっぱりたつひこだ」
「ここにいるが」
 お腹が空いてないのかな。
 それとも慣れている人からしか食べてくれない?
 エサをあげるのは諦めて、ちょっとだけ手を近づけてみる。白馬はわたしの手に鼻を近づけ、においを嗅いだ。沈黙。
 恐る恐る、顔に手を近づける。ちろ、と撫でても、特に反応がなかったから、多少躊躇しつつもゆっくり撫ではじめる。
「……ふふ。たつひこ、かわいい」
「………………」
 無反応で、されるがままにわたしに撫でられてくれる様子が、なんだかおうちでリラックスしてる時のたつひこみたい。本を読んでるときとか。
 撫でることをゆるされているのが嬉しくて、頬ずりしちゃおうと1歩前へ出ようとする。
 浮いた片足はそのまま後ろに下がった。
「もう良いだろ」
 ぶすくれた顔をした龍彦がわたしを引っ張って無理矢理白馬から離した。手を繋いで、そのまま歩き出してしまう。
 すねちゃった。
「かわいかったのにい」
「かわいくない」
 龍彦が無言になってしまったから、ちょっとやりすぎたと反省した。手を繋いだまま、腕に引っ付く。
「たつひこ」
「あるきづらい」
「生まれ変わっても、一緒がいいね」
「……。フン」
 まるで映画のセリフみたいだね。そう言ってばかにする。
「もーなんで笑うの。本気だよ」
「そうか」
「本気本気本気本気」
「うるさい」
「ちがういきものになっても恋人になるもん」
「ふうん。かまきりなら、食べられてしまうね」
「ええ」
 まだおへんじに若干フキゲンが残ってはいるけれど、お気に入りのわたしに色々言われて、ちょっといい気になっているのがわかる。
「食べないよお」
「どうかな、君は食い意地が張っているからね。先程の馬になったとしても、食われそうだ」
「えーーー」
「試しに夕飯は馬肉料理にしようか。うん、私だと思って、ようく味わって食べてみると良い」

 ……。
 わたしの沈黙を察した龍彦が変な顔をした。
 その言い方は、なんか。

「なんかちょっとえっち」
「やめなさい」
「馬……えっちできるかな」
「やめなさいと言っている」
「げえ、でかいらしいよ」
「調べるな」
 携帯を没収されてしまった。