高校生 夏 
おおきなやすみのちょっとまえ
ほんのちょっとのことたち





澁澤

「あ」
 はじけて、ほどけた。

「髪ゴム、切れちゃった」
 手首の余りを差し出す。

「え! 貸してくれるの」「ああ」「あ、でも明日から夏休みだから、すぐに返せなくなっちゃうから」受け取ろうとしない指のさきをそっとすくう
「いいから」私の手首の熱が未だ残っているかもしれないそれを、彼女にくぐらせた「いいの?」「ああ」返さなくていい、とは、あえて言わなかった「夏休み終わったら、絶対返すね! 絶対覚えておくから!」「ああ」ひと月過ぎればまた会える。そんな確信がほしかった





太宰

「宿題多いよね」「めんどくさいねえ」「太宰頭いいからすぐ終わるでしょ」「まあね。やるかどうかは別として」「相変わらずだなあ」「じゃあ、また明日」

 君が笑った。

「明日はもう夏休みでしょ」「ああ、そうだったね」「じゃあね」「じゃあね」明日も会おうよ。言い間違えたフリに乗じて軽はずみにでも言えたなら、夏のうちに君に好きって言えたのかな





中原

「よしゃーお昼ご飯」「今日はちゃんと箸持ってきたか?」「あ」「……ほらよ」「えへへありがとう」隣の席のこいつはしょっちゅう忘れ物をする。俺はいつの間にか、使い捨ての割り箸を持ち歩くようになってた「今日もなんか食うか?」「やったーじゃあ唐揚げちょうだい!」「またかよ」「それと、5限目の教科書忘れたからあとで見せて」「またかよ!」そんなんでお前、俺といない間大丈夫なのか。旅行とか行くなら忘れ物すんなよ「もう帰りたいなー」「今日で終わりなんだから我慢しろよ」「あ」「あ?」「今日までに全部荷物持って帰んないといけないんだっけ?」「おう」「終わったわ」「忘れてたのかよ」そんなんじゃお前、次会う頃には俺のこと忘れてんじゃねーの





中島

「あ」「あ」明日から夏休み、上機嫌の帰り道。アイスを口に咥えている君に会った「うちの学校、買い食い禁止だよ」「へへへそうだったっけね」「もー 堂々と校則違反できる度胸、逆に羨ましいよ」「いいじゃん、じゃあほら口止め料」「え」齧っていないほうのアイスの端がきらきら光る「てか、共犯にしちゃおう作戦」ほら、と差し出されたアイスを齧って、夏になる。